在原業平の和歌

お正月に親戚や友人と、百人一首で遊んだことはありませんか?和歌を読み上げて書かれた札を取る百人一首は、漫画や映画にもなったことで再び注目を集めています。

そんな百人一首で良く知られた言葉の1つが、「ちはやぶる」です。「ちはやふる」と呼ぶこともありますが、それぞれの意味や、またどんな違いがあるのでしょう?

ちはやぶるの意味と、ちはやふるとの違いについて紹介するので、ぜひ覚えてくださいね!

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「ちはやぶる」の意味とは?

「神」を表現する言葉から…

「ちはやぶる」は和歌で使われる、枕詞(まくらことば)と呼ばれるものです。

枕詞は特定の言葉の前に置くことで、和歌の語調を整えて情緒を生み出すために使われます。

「ちはやぶる」は、「ちはやぶ」という言葉が変化したものです。

「ちはやぶ」とは、

  • 勢いよく激しく振る舞う
  • 強く乱暴なこと、強暴

…という意味の言葉で、その様子から「神」を表現する言葉にもなりました。

日本の神様には私たちを守るだけでなく、災害を起こす側面も持ち合わせています。そのため「ちはやぶる」は、「神」にかかる枕詞となったんです

また「ちはやぶ」という言葉は、万葉集が書かれた古い時代に使われたものです。当時は貴族ではなく「氏(うじ)」と呼ばれる、同じ祖先を持つ家族集団が勢力を争っていました。

そこで強い勢力を誇る「氏」から転じて、同じ音である地名の「宇治(うぢ)」の枕詞ともなりました

在原業平の和歌の意味は?

勢いのあるイメージ

「ちはやぶる」の意味を踏まえた上で、平安時代初期の貴族・歌人である在原業平(ありわらのなりひら)が詠んだ次の和歌の意味を考えてみましょう。

ちはやぶる 神代もきかず竜田川 からくれなゐに水くくるとは

ちはやぶるは「神代」にかかる枕詞です。和歌のルールには、枕詞は訳さないというものがあります。そのためここでは、「ちはやぶる」は訳しません。

  • 「神代」は…
  • 「神様がいた時代」という意味で、「きかず」をつけることで「神代にも聞いたことがない」となります。

  • 「竜田川」は…
  • 奈良の竜田山から流れる「竜田川」の事で、現在も奈良にある川です。

  • 「からくれなゐ」は…
  • 「からくれない」と読み、「鮮やかな紅色」を指します。

  • 「水くくる」は…
  • 「水くくる」の「くくる」は染め物の「絞り染め」のこと。竜田川が絞り染めのように赤いと表現しているんです。

これらを合わせると、在原業平の和歌は次の意味となります。

神様の時代でも聞いたことがない。竜田川の水の流れが(紅葉によって)、真っ赤な絞り染めのようになるなんて。

この和歌は、在原業平が皇后・二条后に頼まれ、竜田川と紅葉が描かれた屏風を見て歌ったものです。

在原業平は恋多き男としても有名で、二条后は天皇に嫁ぐ前に恋仲であったとも言われています。そのため二人の複雑な心も、歌に織り込んでいるとも解釈できるんですよ。

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「ちはやふる」との違いは?

「ちはやふる」とは

百人一首を題材として人気を博した映画のタイトルは「ちはやる」でしたが、ちはやぶるとは違うのでしょうか?

実は「ちはやふる」は「ちはやぶる」と同じ言葉で、意味にも違いはありません

ただ、在原業平の和歌では、「ちはやぶる」を使っており、この和歌を指す場合は「ちはやぶる」と濁るようにしましょう。

「千早」にも「神代」にも

特に違いのない「ちはやぶる」と「ちはやふる」ですが、「ふ」が濁らない例があります。

それは、古典落語の「千早振る(ちはやふる)」を指す場合です。

「千早振る」では、和歌の意味がわからなかった男が、長屋の先生に解釈を求めます。ところが先生も意味がわからなかったため、その場でデタラメの解釈をしてしまいます。

「千早振る」での「ちはやぶる」の解釈を、簡単に説明しますね。

竜田川という力士が、花魁「千早」に告白しますが振られてしまいます。振られた竜田川は、妹分の花魁「神代」に告白しますが、やはり振られてしまいました。

そのショックで成績不振となった竜田川は、力士を廃業して実家の豆腐屋を継ぐことにします。しばらくすると豆腐屋にみすぼらしい姿の女が現れ、「おからをわけてください」と言ってきます。

実はこの女は「千早」で、気づいた竜田川は怒って突き飛ばしてしまいます。突き飛ばされて井戸の近くで倒れ込んだ千早は、自分が悪いと井戸に身投げしてしまいましたとさ。

「ちはやふる」が女性の名前に、「からくれなゐ」が「おからをください」とするなど、デタラメで面白い落語です。落語は説明されるより実際に見るほうが面白いので、演芸番組や独演会をぜひチェックしてくださいね!

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美しい和歌と、面白い落語と

「ちはやぶる」は和歌で使われる枕詞で、「神」と「宇治」にかかる言葉です。ちはやぶるには「勢い良く」という意味がありますが、和歌で使うときは訳しません。

有名な和歌は、竜田川が赤く染まる様子を読んだものですが、実は屏風を見て歌ったというから驚きです。そして「ちはやふる」と濁らない落語の「千早振る」は、とんでもない解釈がとても面白いんです!

「ちはやぶる」の意味を覚えて、百人一首や和歌、そして落語を楽しみませんか?